プリンス幼稚園のカリキュラム(アシープ方式)

子どもは遊びの天才です。たとえひとり遊びであって、一見すると同じような遊びを繰り返しているように思えても、詳細に観察すると、そこには子ども一人ひとりの内面の感情を表現し、工夫や展開を織り交ぜ、様々に発展をしていることを見出します。遊びには自分を含む周囲の環境との対話も加わります。全く同一の環境が用意できないように、子どもにとって一つとして同じ遊びの繰り返しはありません。

 幼稚園という社会の中でお友だちや先生、自然などの様々な外的環境が加わると、子どもの活動は一気に複雑さを増し、遊びの世界も飛躍的に広がることになります。遊びという活動が成立するとき、そこには、一つの物語が生まれているのであり、遊びが発展するとき、そこでは物語が書き改められています。一人ひとりの子どもの成長は、そのような遊びを通した生成と再構成の繰り返しにより展開してゆきます。
 
 幼稚園は学校教育法に基づく学校です。その目的は小学校に向けて、子どもたち一人ひとりが生活において身辺の自立を進めるとともに、さまざまな物事に対し、積極的にかかわってゆく態度や力を伸ばすお手伝いをすることです。

 学校における教育実践とは、産業のような「生産性」や「効率性」を一義的な価値とするものではありません。また、人間は機械のように、ある情報や経験をインプットすれば、必ず同じ結果が得られるわけでもありません。昨日と同じ自分は今日いないように、人と人、人とモノの「関係」と「状況」が毎日刻々と変化するものならば、そのときに「能力」や「集中力」などの「力」であらわされるもの(もちろん小学校以降は「学力」も入ります)は、その時々によって変化するはずです。わが子に力をつけていって欲しいと願う親の気持ちはよく理解できます。しかし、そのような「力」を数量化し、測っていつよりどれだけ伸びたと比較を試みることについて、私たち大人はもう少し冷静に、そして注意深く接するべきだと思います。

 かつての小学校以上の学校では、カリキュラムや教育プログラムを企図する際に、「知識か、経験か」という論争がありました。現在では双方が相互に関連し、どちらがという問題ではないと理解されています。忘れてはならないことは、どんなに優秀なカリキュラムを練り上げようとも、上述のように生身の人間である子どもたちが、二度と同じ活動を繰り返すことはないのであり、その都度、その場に集う人々の間に成長をもたらす環境が成立していなければ、カリキュラムは単なる題目になってしまうということです。子どもの成長は分割された知識の集積で達成されるのではなく、知覚や経験の全体性(そこにはこれまで蓄積された、或いは新しく接する知識も含まれます)にもとづく思考と活動で達成されるのであり、その中で、楽しく、面白いという実感を心の性向として育てることが大切です。

 プリンス幼稚園では「力」を養うのは個々の子どもたち自らであり、幼稚園が用意すべきは子どもたちが思う存分それぞれの興味や「力」を伸ばすための「関係」であり「状況」であると考えています。そのためのカリキュラムであり、幼稚園という人間相互の関係も含む環境です。そこでは教諭、保護者の皆さんをはじめ、子どもをとりまく周囲の人間が、自分の人生や社会とそれぞれに向き合い、真摯な学び手であろうと生きているかを、逆に子どもたちから問われ続けている世界でもあることを、まずご理解下さい。

 アシープとはSpirally Ascending Educational Experience Programの頭文字を読み易く並べ替えた呼び名で、プリンス幼稚園が開園以来蓄積してきた保育の形に、シュタイナーシューレ(注・ドイツの教育家ルドルフ・シュタイナーの提唱する教育に基づいた学校)のもつ基本理念の一部を組み合わせたものです。それは子どもに自然に備わっている、興味をもったものや遊びに対し、繰り返し活動を反復しながら学習し、応用してゆくという力に着目し、およそ次のように幼稚園での保育をカリキュラムとして構成したプログラムです。

  • 保育者(教諭)は予めフレームとして組み立てられた3年間の経験プログラムの中から、その時期に子どもたちが興味を持ちやすいと思われる「遊びの種」を用意します。その際、保育者もまたその遊びの種まきに自分が熱中して加わることが大切です。


  • 次に子どもたちに思う存分その活動(遊び)を行わせます。ここで保育者は冒頭で説明したように、子どもたちの活動がどのように展開しているのかを観察します。


  • 頃合いを見て、保育者の側から少し内容を進展させた、或いはやや複雑な、子どもたちにとって少し挑戦を要求する遊びを提案し、子どもたちの様子を更に観察します。子どもたちが保育者の提案した活動に熱中できない場合は、そこでこの活動を一旦打ち切ります。


  • 2週間くらい時間を置いた後、子どもたちに対して最初の遊びの面白さを呼び起こすなげかけを行います。子どもたちが「先生、もういちどやって」と言ってきたなら、もとの経験に基づく遊びの後に、教諭は3で行った提案をもう一度吟味して子どもたちにより発展した遊びの展開を求めます。


  • このように、遊びを通した反復の中に子どもたちと保育者が相互に共同で発展を盛り込み、少しずつらせん状に高次の要素を入れてゆきます。


  • そのような活動の中で、週に一度ゲーム性のある、子どもたちにとってわくわくするような遊びを挿入します。それは上記の遊びと関係のある場合も無い場合もあります。


  • このような活動の反復は、子どもたちが自分で活動を進展させ、どれだけ楽しく本人が有意義だと感じる活動ができたか、そしてそこに仲間をはじめとする周囲の人たちの共感があった、ということこそ人が成長していくための原動力になるのではないでしょうか。その原点は、子どもの頃に我を忘れるほど夢中になって取り組んだ遊びの中にあります。


幼稚園において、このような遊びの反復を発展させながら繰り返してゆくことが、やがて子どもたち自らの「学ぶ力」「生きる力」につながってゆくことを願ってやみません。